例えば、財産管理という面をとってみましょう。
信託では、元気なうちに、自分の財産の所有権を受託者に移転してしまいます。
委託者が自分の財産を全て受託者に信託をしてしまうと、委託者は生活できなくなってしまいますから、やはり、手元に財産を残しておかないといけない。
また、信託を一度設定した後、委託者の手元に継続的に年金などが入ってくる場合も、委託者自身が受給して管理しなければなりません。
成年後見制度と違って、信託によって全財産を包括的に管理するような仕組みを作ることは困難なのですね。
あくまで、委託者の財産の一部を分離して、受託者に任せるだけです。

また、身上監護という機能は、信託にはありません。
例えば、虐待を受けている高齢者を安全な施設に保護したり、精神上の障害を抱えている方をケアしたりするためには、やはり、成年後見制度のほうが向いています。

さらに、成年後見人は、法定代理人として、本人に代わって様々な法律行為を行うことができますが、民事信託の受託者は、あくまで信託された財産の管理だけしかできません。
遺産分割協議の必要がある場合などは、やはり成年後見制度を活用する必要があります。

信託のほうが成年後見制度より優れている、遺言より優れている、などというのは、若干、誇大広告のような印象を受けてしまいます。
専門家としては、それぞれの制度の長所、短所を十分に把握して、使い分けができるようにしないといけないですね。