2017年5月15日月曜日

民事信託の望ましくない終了事由 その1

司法書士の谷口毅です。今日も楽しく、民事信託・家族信託を学んでいきましょう。
さて、今日は昨日の続きで、信託の終了事由の話。
昨日の記事は、こちらですね。

民事信託の終了事由と契約書の作成




信託の終了事由の中には、できれば避けたい、望ましくない終わり方があります。
今日は、望ましくない終わり方の1つ目について。信託法163条2号。「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき」です。分かりやすく言えば、受託者と受益者が同一になってしまった状態が、1年間続いた場合です。

信託は、受託者が受益者のために財産を管理する仕組みであり、受託者と受益者の間に信認関係が存在することが基本とされます。しかし、受託者と受益者が同一人物である場合、結局、自分のための財産管理ではないか、ということになってしまい、信託の基礎となる信認関係がない、と考えられます。このような信託を続けることは許されないのですね。

そうはいっても、様々な事情で、一時的に受託者が受益権を買い取って新たな受益者に売却する、などということもありうるでしょうから、1年間に限り、信託の存続が認められています。そうすると、受託者と受益者が同一人物になった場合に、1年以内に、受託者か受益者のどちらかを変更すれば、信託は終了しない、ということになりますね。

ここで、「受益権の全部を」と条文に書かれていますから、受託者が100%の受益権を有してしまう場合に1年で信託終了となります。たとえば、受託者Aに対して、受益者がABである、などというように、受益者が他にいる場合には、1年継続しても信託は終了しないと考えられます。このようなケースでは、受託者Aは、自分の他にも受益者Bがいるので、受託者と受益者の信認関係は存在する、と考えられるのですね。

では、逆に、受託者ABで受益者Aの場合はどうか?この場合は、1年で信託終了となります。複数受託者のうちの1人が、100%受益者である場合には、「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態」という条文にそのままあてはまってしまいますね。

そうすると、家族信託のスキームを考え、信託契約書を作成する際には、上記のように、受託者と受益者が同一の状態で1年継続するような状態が発生しないように、将来起こりうる様々な出来事を想定し、配慮する必要があります。

あ、そうそう、受託者がAである場合、受益者Aが99%の持分、受益者Bが1%の持分のように、わざわざ受託者以外にほんのわずかだけの受益権を与え、複数の受益者にすることで、信託の終了を避けるようなスキームも考えられますね。
しかし、Bが名目だけの受益者であり、信託の終了を避けるためだけに配置されたような場合には、やはり、本条文の適用はあるものと考えるべきだと思います。受益者としての実質を持っているかどうか、脱法の意図がないかどうかという点が重要ですね。


これからも、楽しく民事信託・家族信託の勉強をしていきましょう。

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