2017年6月1日木曜日

受益者が複数である場合の意思決定

司法書士の谷口毅です。
明日は、小規模な民事信託の契約書作成の勉強会をさせていただくので、自分で作った事例に対して、答えとなる契約書を自分で作っていたのですが…
改めて、信託契約書の作成は難しいですね。信託のことを知れば知るほど、今まで、当たり前に自分が作成していた契約書の内容に疑問を持つようになり、どんどん手を加えざるを得なくなる、といいますか…
特に、受益者代理人などという制度は、本当に規定の仕方が難しいなぁ、と思っています。受益者代理人の使い方の難しさの原因は、また、機会があれば書きますが…




さて、今日は受益者の複数の場合の意思決定の話。
民事信託では、受益者が複数いる、ということは非常に多く起こります。例えば、ABCが共有している財産について、全員が委託者兼受益者になって信託をする場合を想定します。

受益者として、意思決定をしなければいけない場面というのは、例えば信託の変更をする場合や信託の終了をする場合、受託者の監督をする場合などがあります。受益者が1人である場合には、簡単に決まるのですが、受益者が複数いる場合には、意見が分かれるかもしれませんね。

このような場合に、信託法105条によると、「すべての受益者の一致」で物事を決めなければならないと規定しています。例えば、受益者Bさんと受益者Cさんは、信託の終了がしたい。ただし、受益者Dさんは、信託を継続させたい。このように意見が分かれている場合には、信託を終了させることはできない、ということになります。
そうすると、受益者のうちの1人が認知症などになってしまうと、受益者としての意思決定ができずに、硬直化してしまう可能性もありますね。

ただ、もちろんこれは、契約書の作成段階で特約を入れることは可能でして、「受益者の人数の過半数で決定」「保有する受益権の持分の過半数で決定」「受益者Bさんに全ての決定権がある」など、自由に決めることができます。
従って、信託契約書の作成段階で、受益者が複数である場合に、どのように意思決定をするのか、きちんと書いておいた方がいいと思われます。

なお、信託法92条に掲げる事項については、例外的に、それぞれの受益者が単独で権利を行使することができます。
信託法92条に掲げる事項とは何かというと、例えば、受益者に帳簿を見せるよう請求したり、違法な行為を差し止めたりといった、受託者の監督や受益者の保護に関する権利です。

以前の記事(信託契約書の作成と受益権)でも紹介したとおり、この、92条に関する規定は、受益者の権利の中でも、特約によって奪うことのできない強行法規でした。受託者の監督や受益者の保護に関する権利は、強行法規でもあり、かつ、受益者が複数の場合でも、それぞれの受益者が単独で行使できるわけですから、非常に重要なものであることがわかります。

これからも、楽しく民事信託・家族信託を勉強しましょう。
それでは今日は、この辺で。
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