2019年10月29日火曜日

東京地裁平成30年10月23日判決 その3

本日は、鳥取の司法書士の谷口毅が、東京地裁平成30年10月23日判決の解説の続きをお届けしますね。

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父親(原告)と、二男(被告)は、公証役場で契約書作成の打ち合わせを行いました。

さらに後日、公証役場で信託条項の読み聞かせを受けて、信託契約を締結しました。

契約の概要は、下記の通りです。


信託の目的 受益者の生活・介護・療養・借入金返済・納税等に必要な資金を給付して受益者の幸福な生活及び福祉を確保すること並びに資産の適正な管理・運用・保全・活用を通じて資産の円満の承継を実現すること

信託財産 父親が有するビルや貸地等の収益不動産

委託者兼受益者 父親

受託者 二男

終了事由 父親の死亡、信託財産の消滅

変更・終了 受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更し、若しくは本件信託を一部解除し、又は本件信託を終了することができる。

帰属権利者 本件信託終了後、残余の信託財産については、受託者に帰属させる。



まず、上記の契約の概要を見た時に、信託に慣れた人なら、いくつかの違和感を感じるはずですね。


僕が感じた違和感は、4つあります。

帰属権利者がおかしいです。

信託が終了した時に、父親が生きていようが死んでいようが、受託者に帰属する形になってしまっています。

普通の感覚では、父親が生きている間に信託が終了したら、父親に戻すものですが…

さらに、ですが、もしも受託者が変更していたり、受託者を欠いた状態で1年継続して終了した場合に、当初の予測とは全く異なる者が帰属権利者になってしまう可能性がありますね。

大変まずい定め方である、といえましょう。




次に違和感を感じるのは、「本件信託を一部解除し」という部分ですね。

信託が終了したら清算手続をしなければなりません。

「一部分だけ信託を終了させて清算手続に入る」ということが本当にできるのかどうか、という論点があります。

この論点については、肯定派と否定派がいて、結論は今のところ見えていません。

また、新信託法では、「信託を合意で解除する」という用語は、不正確なので避けるべきでしょうね。



次に、信託の目的がおかしいです。

「受益者の幸福な生活及び福祉を確保すること」

「資産の適正な管理・運用・保全・活用を通じて資産の円満の承継を実現すること」

という抽象的な内容に留まっています。


このような、漠然とした願いや望みなどは、「信託の目的」ということができません。

しいて言えば、「受益者の生活・介護・療養・借入金返済・納税等に必要な資金を給付」という部分が、受託者の行為規範として機能しています。

しかし、具体的な受託者による行為規範などはほとんど書かれておらず、信託の目的としての法律上の機能をはたしていないといえます。



最後に、信託の変更について。

信託法149条は、現在、岡根司法書士が連載中ですが、非常にきめ細かな規定になっています。

そこを考慮に入れず、「受託者と受益者の合意」で変更させるということが、果たして相当なのでしょうか。




このような問題がありつつも、公正証書にて、信託契約書が作成されました。


そして、信託契約締結後、すぐに、これらの信託契約の問題点が、紛争を呼び起こすことになります。

続きます。


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