2019年8月28日水曜日

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その4



大阪の司法書士の岡根昇です。
今まで3回にわたって、担保権設定と利益相反の関係についてみてきました。
今回は、そのまとめ。最終回です。


今まで3回の記事は、こちらをご覧ください。
http://www.tsubasa-trust.net/2019/07/blog-post_19.html



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さて、第1回目の事例に戻りましょう。
このような事例でしたね。


事例
お父さんからの相談です。
自分が認知症になった後でも、資産管理会社(長男が代表者)の債務を担保するために担保権を設定できるようにしておきたい。
そのために、長男を受託者として、不動産を信託しておきたい。

委託者兼受益者:お父さん
受託者:長男
信託の目的:不動産の管理処分を通じて、お父さんの生活の安定と福祉の確保をすること
受託者の権限:受託者は、信託財産に属する不動産につき、受益者、受託者又は第三者を債務者とする担保権を設定することができる。


さて、この事例。
受託者は、資産管理会社を債務者として担保設定ができるのでしょうか?
しかも、受託者自身が代表者を務める会社に…


ここまで3回を読まれた方なら、考え方は分かりますね。
1.信託法31条2項の条文上だけを見れば、利益相反行為の許容の定めを契約書に書くことで可能になる。
2.登記も、利益相反行為の許容の定めを置けば、可能と思われる。しかし、旧信託法の時代の登記先例ではダメであり、新信託法になってからの先例は発出されていない。
3.学者や立法担当者の議論では、信託法31条2項の条文を見るだけではダメで、受益者の利益に適合しないといけないという意見が多い。
4.当然、信託の目的に適合しないといけない。

ということです。

これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。
しかし、3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。
また、4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。

従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。

気軽に担保設定をやってしまって、後々に受託者の行動が忠実義務違反だと責任を追及される可能性もあります。
また、最初から、受益者以外の者の利益を図るために信託を設定したのだということになれば、信託自体が無効になってしまう、という考え方もあります。
信託設定の当初から、忠実義務をないがしろにするつもりであった、と判断されてしまう危険性は避けるべきでしょう。


資産管理会社と受益者の関係。
具体的に受益者にもたらされる利益。
信託の目的の定め方。

などなど、ケースごとに、総合的な判断が必要になると考えています。
私が取り組んだ実際の内容は、ここで挙げませんが、大変に気を遣った案件でした。

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