2018年12月23日日曜日

東京地裁平成30年9月12日判決要旨(5)

東京地裁判決解説シリーズに戻ります。
信託が有効である場合の遺留分減殺請求の対象について、信託設定行為ではなく、受益権が対象となることの理由付けについては、非常にシンプルです。


「信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである。」

という1行で、一刀両断にして終わらせています。
戸惑ってしまい、きょろきょろと他の根拠を探しましたが、本当にこの1行です。

一方、信託の一部のみを公序良俗違反と判定した理由については、非常に長く書いています。
要点を絞ると、
・無価値な山林や無償で人に貸している不動産は収益を上げることが困難
・自宅の敷地の一部は、人に有料で貸しているが、自宅の価値全体に見合う収益ではない
・よって、被相続人は、最初から経済的利益の分配を予定していなかった
・原告が遺留分減殺請求権を行使するのは当初より予測できており、これらの不動産からの収益がなければ、それに見合う経済的利益を原告に与えられないことは明白
・他の受益者に対して、受益権の取得を請求できるという信託行為の定めはあるが、固定資産評価額に限定されており、実際の価値に見合う経済的利益を与えられない
・よって、被相続人がこれらの財産を信託に含めたのは、外形上、遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求権を回避するためであったと解さざるを得ない。

ということで、「委託者の意思が公序良俗違反」というぶった切り方をしています。
しかも、いくら読んでも、「換価できない不動産だから」以上の根拠が出てきません。

ちょっとびっくりしました。
信託というのは、何も、どんどん不動産を売ったり貸したりして収益を上げることばかりが目的ではありません。価値のない不動産を入れた、という1点をもって委託者の意思を遺留分回避目的と推認して公序良俗違反というのは、ちょっと雑じゃないですか?と言いたくなります。

公序良俗違反というからには、もうちょっと詳細な、不法性や反社会性などに関する理由付けをしているんだろうと考えていましたが、「収益があげられないから」の1点ですか…う~ん。

続きます。
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