2017年9月16日土曜日

危険な信託条項の例 ~残余財産の帰属~

今日は土曜日です。
最近、土日にリーガルサポートの中国ブロック会議だったり(鳥取主管だったので議長)、滋賀でパネルディスカッションに登壇していたりして、なかなかゆっくりできなかったものですから、今日は久しぶりに休息となりました。
明日は台風ですので、地道に積み残した仕事を片付けようと思います。
さて、今日は危険な信託条項の例について。


最近、他の方が作成された契約書をチェックさせていただくことが多いのですが、最近、気になる条項を付している例を目にします。
その例は、下記のようなものです。

委託者兼受益者Aが死亡した時に、信託は終了する。
残余財産の帰属権利者は、Aの子であるB、C、Dとし、具体的な財産の割当は、帰属権利者の間の協議によって定める。

上記のような条項を付したい気持ちは、大変によく分かります。
具体的に、BCDのうち誰がどの財産を引き継ぐのか、今の時点では決められない。従って、遺産分割協議と同じように、信託が終了した時の協議で残余財産の帰属を決められないか、ということなのでしょう。

しかし、私の個人的な感覚では、上記の条項は大変危険です。それは、「帰属権利者間の協議」というものは、遺産分割協議とは全く異なるものである、ということが理由です。



遺産分割協議であれば、任意での協議が不調に終わった場合には遺産分割調停を行うことができ、調停が不調に終わっても、審判によって裁判所が分割方法を決めてしまう、という風に、強制的に決着をつけることが可能です。

しかし、信託の終了時の残余財産の帰属を協議によって定める場合、これは遺産分割調停ではないと考えられますので、民事調停となります。そうすると、調停が不調に終わった場合に、次に打つ手がありません。結局、残余財産の引継ができないまま止まってしまう可能性もあると考えられます。

また、遺産分割協議の場合には、遡及効があります(民法909条)。従って、被相続人の死亡した時に遡って、協議の結果が適用されることになります。
しかし、残余財産の帰属権利者間の協議には、このような遡及効がありません。
そうすると、税務上どうなるのか、扱いが判然としないという問題点があります。

例えば、死亡の瞬間に、帰属権利者の全員が平等に取得したものとして相続税を計算した上、協議によって新たに財産が移転したものとして贈与税が課税されてしまうというリスクも、ないとはいえません。
税務上の判断はいまだ存在しないと思われますから、このようなリスクは避けておくべきであると考えられます。

信託は、歴史が浅いだけに、どう扱われるのかよく分からない部分が多くあります。
契約書は、さっと作ればよいというものではなく、税務上のリスクや、登記上の扱いが判然としない部分、裁判になったらどうなるかなど、幅広く目を配りながら、できるだけ、「どうやったら分からない部分を回避できるのか」ということを工夫することが重要であると考えています。

当事務所では、契約書のチェックや共同受任、専門職からの相談や研修講師などもお受けしております。

それでは今日は、この辺で。

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