2019年7月16日火曜日

なぜ、受託者は無限責任を負うのか?

本日は、鳥取の司法書士・行政書士の谷口毅が担当します。
これを書いている今は、ちょうど3連休の最後の夜。
一日中、何百通もの戸籍と格闘していたところです。




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さて、簡単なクイズです。
受託者が信託事務を遂行する際に、債務を負った。
受託者はこの債務につき、無限責任を負わなくてはならない。〇か×か。

ちょっと勉強された方なら分かるでしょう。
正解は〇ですね。


ところで、読者のみなさんの中で、受託者が無限責任を負うという根拠の条文を、見つけた方はいらっしゃいますでしょうか?


実は…
信託法の中で…

受託者が無限責任を負うことは、どこにも明記されていません!
いや、敢えて言えば21条2項の反対解釈、とはいえますが、ストレートには書いていません。


一方、合名会社の場合はどうか?
会社法580条などで、「持分会社の債務を弁済する責任を負う」と明記されていますね。


なぜ、持分会社では無限責任を明記されているのに、信託では無限責任が明記されていないのでしょうか?


これ、要するに、「信託には人格がない」ということが影響しています。


合名会社は、会社と社員が別人格です。
会社と社員は同じではないので、会社の責任を社員に負わせるためには、法律に明記する必要があります。


でも、信託には人格がありません。
だから、法律に明記しないでも、無限責任を負うのは当たり前のことなのです。


例えば、受託者が、信託財産に属する家を修理するために工事を発注しました。
しかし、修理業者からすると、信託事務のために修理を発注されているのか、それとも、個人的な都合のために発注されているのかなんて、見分けがつくはずがありません。
受託者が「信託のためにする意思」をもって発注しているのかどうかなど、修理業者の目からは容易には見分けがつかないからです。


また、信託財産も固有財産も、いずれも受託者の所有物なので、所有権は1つしかありません。
これを区別するのは、「分別管理義務」という、信託の内部的な義務に過ぎないため、対外的に主張できるものでもありません。


そうすると、修理業者からみれば、「あなたが発注したんでしょ!?信託だとかなんとか、そんなこと知ったことではないので、あなたの所有する全財産で払ってください!」と言えるのが当然のことになります。


なので、法律の原則から言えば、固有財産と信託財産の区別に関係なく、自分が発注したものは、自分の所有する物で責任を負う、ということになります。
ただ、これを徹底すると、受託者が自分のために負った債務でも、信託財産に強制執行をかけることができてしまいます。
そこで、信託法は、受託者が自分のために負った債務で強制執行や相殺はできない、という特別の定めをおいて、信託財産の保護を図っているのですね。
これが倒産隔離機能です。

まとめると、
合名会社では、法人と社員が別人格であるから、「社員が無限責任である」と書く必要がある。
信託では、信託財産と固有財産が同一人物の所有に属するから、「無限責任である」と書かないでも全部に強制執行できて当然。
ただ、信託財産を守るために、「信託財産への強制執行や相殺は禁止する」という規定を置いている。
ということになります。


ちょっと難しかったでしょうか?
この辺をちゃんと解説している本があまりないので、ちょっと書いてみようと思ったところです。
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