2020年8月18日火曜日

受託者の権限の制限 その2

おはようございます。
大阪の司法書士岡根が担当します。


本日は、受託者の権限の制限に関するお話の続きです。
前回の記事はこちら
受託者の権限の制限 その1


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私も、前回の記事の条項例のように、「受託者は、受益者代理人の同意を得て、信託不動産を売却することができる。」と定めていた時期があります。

しかし、現在では、「受託者は、受益者の同意を得て、信託不動産を売却することができる。」と定めるようにしています。

その理由は、「受益者代理人がいなくなる」こともあるからです。
「受益者代理人がいなくなる」というと、受益者代理人が死亡したり、辞任したり、解任された場合など、受益者代理人に任務終了事由が生じた場合のことをイメージするのではないでしょうか。

しかし、この場合は、新受益者代理人が選任されますので、受益者代理人がいなくなるということはありません。

ここでいう「受益者代理人がいなくなる」とは、「受益者代理人による事務の処理の終了」を意味しています。
信託法143条1項1号は、委託者及び受益者代理人に代理される受益者が受益者代理人による事務の処理を終了する旨の合意をしたときは、受益者代理人による事務の処理は終了する、と規定しています。

つまり、前回の事例のお父さんが、受益者代理人に事務を処理してもらうことをやめた場合、「受益者代理人はいない」ことになります。

もし、「受託者は、受益者代理人の同意を得て、信託不動産を売却することができる。」と定めていると、このように受益者代理人がいなくなった場合は、受益者の同意を必要とする趣旨なのか、あくまでも受益者代理人の同意が必要とするものであって受益者の同意は不要とする趣旨なのか判然としないという問題が生じますね。

では、「受託者は、受益者の同意を得て、信託不動産を売却することができる。」と定めた場合、受託者は誰の同意を得る必要があるでしょうか?

受益者代理人がいるときは、受益者ではなく、受益者代理人の同意を得ることになります。

これは、受益者代理人は、その代理する受益者のために、この受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限があり、他方で、その代理される受益者は、一部の権限を除いて、権限を行使することはできないとされているためです(信託法139条1項、5号)。

しかしながら、信託目録には「受益者の同意を得て」と記録されているにも関わらず、受益者代理人の同意書を添付した場合は、法務局からストップがかかってしまう可能性は否定できませんね。

この場合、法務局に対しては、受益者代理人がいる場合は、信託法139条5項により、その受益者代理人に代理される受益者は、同意権を行使するとはできず、受益者代理人が同意権を行使することになることを説明することになります。

とはいえ、この点は、法務局だけではなく、買主に対しても説明が必要となるところです。

私の場合、受益者代理人には、その代理する受益者のために、この受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限があり、他方で、その代理される受益者の権限の行使は制限されるという関係性を契約書に明記し、信託目録にも記録するようにしています。


信託の学校の開校日まで、もうすぐです!
皆様と一緒に勉強できる日を楽しみにしています。

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