2018年10月7日日曜日

特定委託者(みなし受益者)

兵庫県司法書士会での研修講師が終わり、帰り道です。
信託に通暁した先生からも、「ブログを参考にしています」と言われることが多くなってきて、更新をさぼってはいけないな…と思っております。


さて、今回も受講者から質問があったのですが、税務上の「特定委託者(みなし受益者)」の論点があります。
結論から言いますと、私としては、「特定委託者(みなし受益者)」の論点については、特段、気にする必要はない、という考えを持っております。

「特定委託者」と呼んでも「みなし受益者」と呼んでも同じことですが、これは税法上の概念で、「信託を変更する権限を持つもの」「条件付であっても、信託財産の給付を受けるもの」については、受益者とみなして、課税の対象とする、ということです。

ここで、みなさん、びっくりするわけです。
例えば、下記のような例を考えてみましょう。
父親を委託者兼受益者、息子を受託者とする自益信託を設定する。
信託の変更は、委託者と受託者と受益者の合意によってできる、と定める。
父が生きているときに信託が終了する時は父が残余財産を取得し、父が死亡した後に終了した時は息子が残余財産を取得する、と定める。

この場合、受託者が特定委託者に該当して、贈与税を課せられてしまうのではないか?と心配するわけです。
確かに、上記の事例では、受託者は、委託者と受益者と合意して信託の変更をする権限を有していますし、父の死亡後は残余財産を取得するかもしれません。
「信託の変更権限を有する」「信託財産の給付を受ける」という2つの要件を満たしそうに思えますね。

ここについて解説したのが、財務省ホームページ上の「平成19年度税制改正の解説」です。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2007/explanation/index.html
上記のリンクの294、295ページ目にしっかり書いてあります。
参考とすべき部分を抜粋してみました。

「受益者等が2以上ある場合には、受益者等課税信託の信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとされています。」
「信託行為の実態に応じて、帰属を判定するものと考えられます。この判定については、仮に信託がないものとした場合に同様の権利関係を作り出そうとすればどのような権利関係となるかが参考になると考えられます。」
「以上の定義を形式的に当てはめたところ受益者等に該当する者であっても、権利の内容によってはその者に帰属させるべき資産及び負債並びに収益及び費用が限りなくゼロに近い場合もあると考えられ、この場合には、その者を受益者等として取り扱わないことも考えられます。」

この辺が、特定委託者(みなし受益者)を考える上でのポイントなのかな、と考えています。
実際、受託者は受益者のために信託事務を行うのですから、受託者に流れ込む利益の実質はほぼゼロと考えていいでしょう。
また、父が存命中は、信託が終了したとしても、残余財産は父に帰属します。父が生きている限り、受託者である子が信託財産の給付を得ることはありません。

また、「仮に信託がないものとした場合に同様の権利関係を作り出そうとすればどのような権利関係となるかが参考になる」とあることから、信託を使わない場合にどのような法律関係になるかを考えてみたほうがいいと思います。
すると、信託を使わないで、父について法定後見を申し立てたり、父が遺言を作成したりしている場合と実質的には変わりない、と考えることができます。

そうすると、受託者が形式的に特定委託者に該当するからといって、その利益の内容は限りなくゼロに等しいわけであり、特定委託者として取り扱わないのが相当である、と考えています。
従って、特定委託者(みなし受益者)の論点は、実務上、ほぼ無視して差し支えない、と思います。

当事務所では、一般の方からの相談のみならず、専門職との共同受任、契約書チェック、講演会の講師などもお受けしております。

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