2017年11月20日月曜日

信託と成年後見制度の調和を図る

司法書士の谷口毅です。
日司連の信託の委員会の会議や、熊本での研修講師などをして、鳥取に帰ってきたところです。

司法書士の石田光曠先生をはじめとする方々が、現在社会問題となっている空き家・所有者不明土地の問題に関して提言書をまとめられています。
http://www.shihosyoshi-lawyer.com/pdf/teigen.pdf
諸外国の制度を横断的に見ながら、日本の土地所有権の法制の問題点に突っ込んでいます。
土地所有権の分散化と複雑化に対し、それを予防するための方策を提言されています。
信託も、提言のひとつとして挙げられていますね。



最近、「信託をどんどん推進するぞ!」という方のセールス文句として、「成年後見制度は使いにくい。信託であれば大丈夫!」というアピールが多くなってきている気がします。
一方、成年後見制度に思い入れをもって活動をしている専門職は、上記のような言説に不快感を感じ、信託そのものに不信感を持ってしまう。
結果、信託推進派と、成年後見推進派の争いみたいになってしまっている雰囲気があります。

いや、コップの中の小さな争いなんですけどね、そんなもの…

信託法の大家である新井誠先生は、成年後見制度の大家でもあります。
司法書士の大貫正男先生も、成年後見制度と信託の双方に通暁されています。
上記の大先生方と比べるべくもありませんが、私も、それなりに信託に詳しい者であると同時に、リーガルサポートの鳥取支部長を務めるくらいには、成年後見制度に思い入れがあります。

信託も、成年後見制度も、どちらも財産管理の制度の一種なんですから、本来は噛み合わせが良いものであるはずなんですよね。
そうすると、信託と成年後見制度をどのように調和させていくのか?ということが、今後、ますます重要になってくると思います。

確かに、信託には成年後見制度よりも優れている点があります。
例えば、裁判所の監督を抜きにして、受託者の裁量で財産の管理・運用・処分ができるということが大きなメリットであることは間違いありません。
遺言代用信託や、受益者連続型信託なども、信託のすばらしい特長です。

しかし、信託にも限界があります。
①全財産を生前に包括的に信託することは困難である。
②年金などは、本人しか受け取れないため、年金の管理は受託者はできない。
③法定代理人ではないので、遺産分割協議などはできない。
④身上監護の機能はない。虐待対応や施設入所契約、生活保護申請などの権利擁護の場面には向かない。

成年後見制度のメリットとしては、
①全財産を(本人が存在を忘れているような財産をも含め)包括的に管理することができる。
②法定代理人であるため、遺産分割協議などの代行も可能である。
③身上監護機能が充実しているため、虐待対応なども可能である。
④年金の管理や生活保護申請なども可能である。

ということができます。
そうすると、信託をしたとしても、それだけで老後の対策は完璧だ、ということではなく、後日、成年後見制度のお世話にならなければいけない状況は存在しうるわけですね。

繰り返しますが、両制度をどのように調和させていくことができるのか、という点が、重要であると考えています。そして、契約書の作成の段階でも、一定の配慮が必要になるかもしれない、と思っています。

それでは、今日はこの辺で。

当事務所では、一般の方からの相談のみならず、専門職からの相談、共同受任、契約書チェック、研修講師などもおうけしております。
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