2017年4月21日金曜日

株式信託の使い方2

司法書士の谷口毅です。

今日は、前回に引き続いて、株式信託について。

創業者を委託者兼受益者、会社の後継者を受託者として、株式を信託して引退する際の話です。指図権の定めを契約に盛り込み、議決権の行使の際には、創業者が元気なうちは、その指図に従わないといけない、という形にします。



ここで、もしも、受託者が受益者の指図に従わず、まったく自分勝手に議決権を行使したらどうなるのでしょうか?そのような株主総会の決議は、無効や取消の対象になってしまうのでしょうか?

ここからは、実際に遭遇したケースではないので、私の意見ですが、株主総会の決議は有効であり、無効になったり取消したりということはできないと考えます。なぜなら、受益者は、あくまで受託者に対する債権者に過ぎず、会社との直接の関係はありません。法律上、株式の所有権は受託者に移転しているので、会社としては受託者を株主として扱えばよく、株主総会の手続としては瑕疵がないと考えられるからです。

そうすると、せっかく信託契約で指図権の定めを盛り込んでも、受託者が従わないで、予想外の決議を成立させる可能性もあります。その場合は、受益者は受託者の信託契約の債務不履行に基づく損害賠償を請求したり、受託者を解任したり、信託を終了したりする、ということはできますが、株主総会の決議自体は有効だと考えられます。

そうすると、やはり、前回の記事と同様、受託者が受益者の指図に従わなかった場合に備え、違約金条項などを入れておくのかどうか、ということを検討に加えたほうがよい、と思われます。

この点、例えば、引退の手法として、信託を使わない場合を考えてみます。株式の一部を後継者に譲り、一部を創業者が保有したままにして、例えば、種類株式を活用したり、属人的株式の定めを活用したりして、創業者のコントロールを効かせる方法もありますね。

このようなやり方ですと、創業者自身も株主のままなので、創業者の意見は間違いなく反映されるといえます。しかし、生前に全ての株式を後継者に移転するのが困難である、という欠点もありますので、やはり、個人的には信託のほうが優れていると考えています。

信託契約書の作りこみは難しいのですが、やはり、起こりうる様々なケースを想定しておいた方がいいと考えられます。
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